・・・自分は彼の小康を得た時、入院前後の消息を小品にしたいと思ったことがある。けれどもうっかりそう云うものを作ると、また病気がぶり返しそうな、迷信じみた心もちがした。そのためにとうとう書かずにしまった。今は多加志も庭木に吊ったハムモックの中に眠っ・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・ 滝田君に最後に会ったのは今年の初夏、丁度ドラマ・リイグの見物日に新橋演舞場へ行った時である。小康を得た滝田君は三人のお嬢さんたちと見物に来ていた。僕はその顔を眺めた時、思わず「ずいぶんやせましたね」といった。この言葉はもちろん滝田君に・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・ どういう積りで運命がそんな小康を私たちに与えたのかそれは分らない。然し彼はどんな事があっても仕遂ぐべき事を仕遂げずにはおかなかった。その年が暮れに迫った頃お前達の母上は仮初の風邪からぐんぐん悪い方へ向いて行った。そしてお前たちの中の一・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
出典:青空文庫