・・・少兀の紺の筒袖、どこの媽々衆に貰ったやら、浅黄の扱帯の裂けたのを、縄に捩った一重まわし、小生意気に尻下り。 これが親仁は念仏爺で、網の破れを繕ううちも、数珠を放さず手にかけながら、葎の中の小窓の穴から、隣の柿の木、裏の屋根、烏をじろりと・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ と小生意気な事を言った。 私はいよいよ興覚めて、「それじゃ何がいいんですか? 接吻ですか?」 色婆め! こっちは、子わかれの場まで演じて、遊びの附合いをしてやっているんだ。「わたくし、帰りますわ。」女はテーブルの上のハ・・・ 太宰治 「父」
・・・「軍隊では、ずいぶん殴られましてね。」「そりゃ、そうだろう。僕だって君を、殴ってやろうかと思う事があるんだもの。」「小生意気に見えるんでしょうかね。しかし、軍隊は無茶苦茶ですよ。僕はこんど軍隊からかえって来て、鴎外全集をひらいて・・・ 太宰治 「母」
・・・皇太子が、唯一の御馳走は、カレーライスだと思っているということについて、人々は小生意気で早熟な闇成金の息子たちに対するのとはちがった、ほほ笑みをもらすのである。皇后が動物園へ行って、おもしろそうに笑って象を見ている、その姿に、世間を知らない・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫