・・・ かなり久しい間、海に来ないで居たので、波の音が、脳の中の、きたないものを皆持って行って呉れるかと思われる様に、新らしく感じられる。 小田原の海ほど高い波がよせないので、つれて景色ものどやかで、見て居ても快い。 波面と、砂がまぼ・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・油井が最後の訣れにその女と小田原へ行ったというところへ来たとき、お清は、「ああ、みのちゃん、お前ちょっとこれ沸しといで」と瀬戸引の薬罐をぎゅっとみのえの手に持たせた。「お願いだから、あっちへ聞えるように話してよ、ね、油井さん」・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・彼は夏休以前から病気で、恢復期に向った為め、小田原か大磯、或は鎌倉に行っていたかもしれない。其等の地方は、この号外によれば津波で洗われ、村落の影さえ認め得ない程になっているらしいのだ。けれども、是も、理性に訴えて考えて見た結果として感じる心・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・ 家康が武田の旧臣を身方に招き寄せている最中に、小田原の北条新九郎氏直が甲斐の一揆をかたらって攻めて来た。家康は古府まで出張って、八千足らずの勢をもって北条の五万の兵と対陣した。この時佐橋甚五郎は若武者仲間の水野藤十郎勝成といっしょに若・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・やがて明応四年には小田原城を、永正十五年には相模一国を征服した。ちょうどインド航路が打開され、アメリカが発見されて、ポルトガル人やスペイン人の征服の手が急にのび始めたころである。 北条早雲の成功の原因は、戦争のうまかったことにもあるかも・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫