・・・ と片手で小膝をポンと敲き、「飲みながらが可い、召飯りながら聴聞をなさい。これえ、何を、お銚子を早く。」「唯、もう燗けてござりえす。」と女房が腰を浮かす、その裾端折で。 織次は、酔った勢で、とも思う事があったので、黙っていた・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ と壁の隅へ、自分の傍へ、小膝を浮かして、さらりと遣って、片手で手巾を捌きながら、「ほんとうにちと暖か過ぎますわね。」「私は、逆上るからなお堪りません。」「陽気のせいですね。」「いや、お前さんのためさ。」「そんな事を・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ と手強き謝絶に取附く島なく、老媼は太く困じ果てしが、何思いけむ小膝を拍ち、「すべて一心固りたるほど、強く恐しき者はなきが、鼻が難題を免れむには、こっちよりもそれ相当の難題を吹込みて、これだけのことをしさえすれば、それだけの望に応ずべし・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
出典:青空文庫