・・・ 浅間の麓に添うた傾斜の地勢は、あだかも人工で掘割られたように、小諸城址の附近で幾つかの深い谷を成している。谷の一つの浅い部分は耕されて旧士族地を取囲いているが、その桑畠や竹薮を背にしたところに桜井先生の住居があった。先生はエナアゼチッ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 星野滞在中に一日小諸城趾を見物に行った。城の大手門を見込んでちょっとした坂を下って行くのであるが、こうした地形に拠った城は存外珍しいのではないかと思う。 藤村庵というのがあって、そこには藤村氏の筆跡が壁に掛け並べてあったり、藤・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・この日の降灰は風向の北がかっていたために御代田や小諸方面に降ったそうで、これは全く珍しいことであった。 当時北軽井沢で目撃した人々の話では、噴煙がよく見え、岩塊のふき上げられるのもいくつか認められまた煙柱をつづる放電現象も明瞭に見られた・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ ○今度の朝鮮人の陰謀は実に範囲広く、山村の郷里信州の小諸の方にも郡山にも、毒薬その他をもった鮮人が発見されたとのことだ。 九月二十四五日より大杉栄ほか二名が、甘粕大尉に殺された話やかましく新聞に現れた。福田戒厳令司令官が山・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・信州小諸「古城のほとり」なる小諸の塾の若い教師として藤村が赴任した内的な理由は、そこにあったと思える。 都会の遽しさや早老を厭わしく思った時、藤村は心に山を描いた。幼心に髣髴とした山々を。故郷の山を。明治三十二年から三十三年までの一年に・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫