-
・・・高部や小鴨や大鴨も見える。冬から春までは幾千か判らぬほどいるそうだが、今日も何百というほど遊んでいる。池は五、六万坪あるだろう、ちょっと見渡したところかなり大きい湖水である。水も清く周囲の岡も若草の緑につつまれて美しい、渚には真菰や葦が若々・・・
伊藤左千夫
「春の潮」
-
・・・水底を見て来た顔の小鴨かな、つまりその顔であったわけだが、さらに、よろよろ船腹の甲板に帰って来て眼前の無言の島に対しては、その得意の小鴨も、首をひねらざるを得なかった。船も島も、互いに素知らぬ顔をしているのである。島は、船を迎える気色が無い・・・
太宰治
「佐渡」