・・・と、可憐にも当時の不十分に心の深められていなかった鉄則に屈することが、描かれているのである。 片岡氏は、当時のブルジョア道徳が逆宣伝的に、階級闘争に従う前衛のはなはだしく困難な生活の中に、不可避的に起ったさまざまの恋愛錯雑を嘲笑したのに・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・愛する日本が、また再び作家にかたことを云わせるような非条理な強権に決して屈することのないように。言論の自由ということは、どんなに人間の社会生活にとって基本的に主張されなければならない重大な権利であるかということについて忘れないために。 ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・だから、戦時中は小才のきく部隊長のような藤吉郎が清洲築城に活躍しても、よむ人は、逆に、やっぱり秀吉ほどの人物は、と、自分たちが非人間に扱われている現状に屈する方便に役立ってゆくのである。吉川英治は、青苔のついた封建の溝をつたわっている。こん・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・引放たんとするに、母劇しくすまいて、屈する気色なければ、止むを得ずして殺しぬ。六郎が祖父は隠居所にありしが、馳出でて門のあきたるを見て、外なる狼藉者を入れじと、門を鎖さんとせしが、白刃振りて迫られ、勢敵しがたしとやおもいけん、また隠居所に入・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・が五指を屈するほどに出現している。それは少なくとも現実である。そうして眼を開いて見るものには、人間の自然である。 これはドストイェフスキイの真実の内のただ一つに過ぎない。他の多くの真実についても私は同じように警告を付けたいと思う。それほ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫