・・・かくして真の人間の立場から全体主義の人間倫理学がつくられて行くことが来たるべき史的展望ではあるまいか。 最後に倫理学の最も深き、困難な根本問題として「意志の自由」の問題がある。「意志の自由」とは普通には、行為の選択の自由のいいである・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ついでに屋上さらに三四百尺の鉄塔を建てて頂上に展望台を作るといいと思う。その側面を広告塔にすれば気球広告よりも有効で、その料金で建設費はまもなく消却されるであろう。高い所に上がりたがるのは人間というものに本能的な欲望である。この欲望は赤ん坊・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・という唯一の見地よりしか人間の世界を展望することが出来なかった。それで彼の一神教的哲学は茫漠たるロシアの単調の原野の民には誠に恰好なものであり、満洲や支那の平野に極めてふさわしいものでなければならない。彼等の国には火山などは一つもないのであ・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
一 地震の概念 地震というものの概念は人々によってずいぶん著しくちがっている。理学者以外の世人にとっては、地震現象の心像はすべて自己の感覚を中心として見た展望図に過ぎない。震動の筋肉感や、耳に聞こゆる破壊的の音響や、眼に見える物・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・大きな樹木のないお蔭で展望の自由が妨げられないのがこの道路の一つの特徴であろう。右を見ると伊豆の国というものの大きさがぼんやり分かるようであり、左を見下ろすと箱根山の高さのおおよその概念が確定するような気がする。女車掌が蟋蟀のような声で左右・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・地上七十余尺の頂上まで上ってしばらく四方を展望していると思うと、突然石でも落とすようにダイヴするが途中から急に横にそれて、直角双曲線を空中に描きながらどこかの庭木へ飛んで行く。しばらくするとまた煙突の梯子へもどって来てそうして同じ遊戯を繰り・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・一方では連句的レビューの可能性が示唆され、他方ではまたアメリカン・レビュー的連句の開拓も展望される。 筋の通った劇よりも、筋はなくて刺戟と衝動を盛り合わせたレビューの流行る現代に、同じような傾向が色々の他の方面にも見られるのは当然のこと・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ただこういう仮設的な比較によって、連句におけるいろいろな個性の対立ということがいかに重要なものであるかを理解するための一つの展望的見地を得ようとするに過ぎないのである。 こういうふうに考えて来た後に、連句のうちでも独吟というものにどうも・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封建的な桎梏から自由になって民主化すると・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ところが、この資本主義の社会の社会悪と矛盾、苦悩惨酷があまりひどいから、わたしたちの心には社会的な自覚とともに、正義感や疑問が起って、次第に階級社会の過去の発展の歴史と未来の展望に対して無関心でいられなくなって来たのです。そこから出発して共・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫