・・・これを前の言葉で表現しますと、今まで内発的に展開して来たのが、急に自己本位の能力を失って外から無理押しに押されて否応なしにその云う通りにしなければ立ち行かないという有様になったのであります。それが一時ではない。四五十年前に一押し押されたなり・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・鼻の穴が三角形に膨脹して、小鼻が勃として左右に展開する。口は腹を切る時のように堅く喰締ったまま、両耳の方まで割けてくる。「まるで仁王のようだね。仁王の行水だ。そんな猛烈な顔がよくできるね。こりゃ不思議だ。そう眼をぐりぐりさせなくっても、・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明とともに、小市民的土・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ 旅行では一人旅よりも、気の合った友達と行くのが好きです。展開されゆく道中の景色を楽しく語合うことも出来ますし、それに一人旅のような無意味な緊張を要しないで気安い旅が出来るように思います。煩いのない静かなところに旅行して暫く落ちついてみ・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・ 明日の日本文学は、今日の現実の一面に肩を聳かしているこのような気分との摩擦から、或る微妙にして興味ある展開を示すものと思われるのである。社会の歴史は、犠牲をもっている。文学の歴史も、このことに於ては等しい。 世界文学の範囲にひろく・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・君の胸臆は明白に私の前に展開せられて時としては無遠慮を極めることがある。Verblueffend に真実を説くことがある。私はいつもそれを甘んじ受けて、却って面白く感じた。 殆ど毎日逢って、時としては終日一しょにいることさえあるので、F・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・の意義が生活の感覚化にありとするならば、いかなるものと雖もそれらの人々のより高きを望む悟性に信頼し、より高遠な、より健康な生活への批判と創造とをそれらの人々に強いるべきが、新しき生活の創造へわれわれを展開さすべき一つの確乎とした批判的善であ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・街は彼を中心にして展開した。その街角には靴屋があった。靴屋の娘は靴の中で黙っていた。その横は幾何学的な時計屋だ。無数の稜の時計の中で、動いている時計は三時であった。彼は女学校の前で立ち停った。華やかな処女の波が校門から彼を眼がけて溢れ出した・・・ 横光利一 「街の底」
・・・しかも作者は、この再会の喜びをも、実に注意深く、徐々に展開して行くのである。まず玉王は、連れ込まれて来た老夫婦をながめて、それらを縛り上げている役人たちをしかりつけ、急いでその縄を解かせる。そうしてこの寛仁な国司が十七年前に鷲にさらわれた愛・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・いかなる思想も、それが根本の理念の展開として意義を有する限り、すべてこの道に属する。もし或る特殊な思想をもって皇室を独占せんとするものがあれば、それは皇室の神聖を汚すものである。ひいては皇室の安泰を脅かすものである。なぜなら道の代表者を特殊・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫