・・・これはきっとみなさまも御存知だろうと思いますが、パンドーラという人間の女性が、ジュースの神につくられて、神の世界より巨人ヴァルカンの妻として人間の世界におくられます。その時ジュースは一つの箱をパンドーラに与えて言います。「お前は人間界に行く・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・ ソフィヤ夫人が、巨人レフ・トルストイの思想と行為とを世俗の面へまで陥落させようとした時には常用の武器とされた子供たち。やがて、髭の剃りあとも青く母の側に立って「気狂い親爺」と父を罵り、子の権利を主張した息子たち。それらの息子等の生活態・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ イカルスの物語は、人類の発展的な冒険心の肯定とその終結における否定との矛盾で、わたしたちに同じギリシア神話の中のプロメシウスの物語を思いおこさせる。巨人プロメシウスがオリンパスの神々の首長であるジュピターの神殿から火を盗んで来て、それ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・此は空想ではないのだ、自分が呼んだ巨人におびえるのは自分か。 此の問題を決定するまでに、自分はどこか静かな田園に考え場所を求める。 一九一八年十月二十三日〔東京市本郷区駒込林町二一 中條葭江宛 シカゴより〕 此頃のアメリ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・――部落の年寄達はきっとこういう言葉を使った。――巨人が退屈まぎれに造ったのだというS山を正面に、それから左右に拡がって次第次第に高く立派になっている山並みに囲まれた盆地のところどころには、緑色をたっぷり含ませた刷毛をシュッ、シュッ、シュッ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 巨人の檻 バルザックは、徹底的に、雄渾に、執拗に人間生活の関係を描く作家であった。大抵の才能ならば、その白熱と混沌との中で萎えてしまいそうなところを、踏みこたえ、掌握し、ときほぐし、描写しとおしたところに、こ・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・大家らしい偉さによってではなく、その生粋の人間らしさで老いた巨人のようにたのもしい感じを与えるのがゴーリキイでした。そのゴーリキイが、ソヴェト人民の建設をさまたげようと企んだトロツキー一派の反革命派のために毒殺されたのは一九三三年でした。ゴ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・或る時森で悪魔的な巨人に出合った。そして難題をかけられた。その難題というのは「女が一番この世で欲しがっているものは何か」ということで、その答を日限までに持って来なければ果し合いをするという条件であった。ガラハートは当惑してあちらこちらと彷徨・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・とにかく、祖国を敗亡から救うかもしれない一人の巨人が、いま、梶の身辺にうろうろし始めたということは、彼の生涯の大事件だと思えば思えた。それも、今の高田の話そのものだけを事実としてみれば、希望と幻影は同じものだった。「しかし、そんな青年が・・・ 横光利一 「微笑」
・・・また心理と自然と社会との観察者としても、ロシアの巨人の塁を摩する。彼もまた「人間」の運命を描いた。そして我々に新しいファウストを与えた。 私は近ごろ彼の『赤い室』をゾラの『パリ』と比較してみた。彼がゾラの影響の下にその処女作を書いたこと・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫