・・・しかし君臣となり、親子、夫婦、朋友、師弟、兄弟となった縁のかりそめならぬことを思い、対人関係に深く心を繋いで生きるならば、事あるごとに身に沁みることが多く考え深くさせられる。対人関係について淡白枯淡、あっさりとして拘泥せぬ態度をとるというこ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・私たち師弟十三人は丘の上の古い料理屋の、薄暗い二階座敷を借りてお祭りの宴会を開くことにいたしました。みんな食卓に着いて、いざお祭りの夕餐を始めようとしたとき、あの人は、つと立ち上り、黙って上衣を脱いだので、私たちは一体なにをお始めなさるのだ・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」等である。幕あく。舞台しばらく空虚。突然、荒い足音がして、「叱るんじゃない。聞きたい事があるんだ。泣かなくてもいい。」などという声と共に、上手のドアをあけ、国民・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・つぎに私は、友情と金銭の相互関係について、つぎに私は師弟の挨拶について、つぎに私は兵隊について、いくらでも言えるのであるが、いますぐ牢へいれられるのはやはりいやであるからこの辺で止す。つまり私には良心がないということを言いたいのである。はじ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・あるいは逆に肉体に共通な点のあるのが原因でそれが精神に影響して二人の別々な人間の間に師弟の関係を生じる一つの因縁にならないとは限らぬ。もしそうだとすれば先生と弟子とが同じ病気にかかる確率は、全く縁のない二人がそうなるより大きいかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・ 坪内先生が死なれて、私はあちらこちらから感想をもとめられましたが、先生と私との間には所謂師弟としての絆は浅くあったし、年の差以上の差が互の歴史性の上にあり、『文芸』にそのような短いものを書いたきりです。坪内先生の生涯を考えるにつけ、様・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 自分とT先生との心持 自分とT先生との心持――寧ろ、自分のT先生に対する心持は深く、強く、ごまかし難いものだ。 師弟の関係に於て何かのよいきっかけを見つけ、書きたい。 この心持、佐藤春夫の見失われた白鳥の話にあ・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・従って、先生と自分との間には、嘗て一度も、互を結ぶ師弟の愛について、熱情的な言葉は交されなかった。沈黙のうちに、私は全く先生への尊敬と帰服とを感じ、先生が、自分にかけていて下さる篤い心を、日光に浴すように真心から感じていたのである。 あ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・マダム・キューリーの夫妻関係にも幾分師弟としての影響があり、グレゴリイ夫人のよい作品を今日私共が持つことが出来たのは、友人としてのイェーツが、同時に彼女のよい先生でもあったためと考えられます。男性が最もよく女性の感化を受けた時、彼は天性の最・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・ 三、門下生に対する態度 門下生と云うような人物で僕の知て居るのは、森田草平君一人である。師弟の間は情誼が極めて濃厚であると思う。物集氏とかの二女史に対して薄いとかなんとか云うものがあるようだが、その二女史はどんな人か知・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
出典:青空文庫