・・・急な帰京 一、作についての衝突、あの夜、西洋間、父 自分のさっぱりさと淋しさ、 ○会田さん来スエ子と、林町のことを云って涙をこぼす。 ○翌々日祖母、金、八十の祝、林町にむりやり引っぱってゆく。 一、青山への引越し、その・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・義弟が原子爆弾の犠牲となったため田舎へ帰ったが、急な帰京が必要となって、呉線の須波―三原の間、姫路の二つ三つ先の駅から明石まで、徒歩連絡した。須波と三原との間は雨の降りしきる破壊された夜道を、重い荷を背負った男女から子供までが濡れ鼠となって・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・心に少し余裕のあった故か、帰京して数日の間、私は、大仕掛な物質の壊滅に伴う、一種異様な精神の空虚を堪え難く感じた。 今まで在ったものが、もう無い、と云う心持は、建物だけに限らない。賑やかに雑誌新聞に聞えていた思想の声、芸術の響き、精神活・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・そのうち日が立って、天祐和尚の帰京のときが次第に近づいて来た。和尚は殿様に逢って話をするたびに、阿部権兵衛が助命のことを折りがあったら言上しようと思ったが、どうしても折りがない。それはそのはずである。光尚はこう思ったのである。天祐和尚の逗留・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫