・・・可愛い返事だぜ。平仮名で『しょうちいたしました』と書いてある――」と、得意らしく弁じ立てるのです。ところが今日は妙な事に、こう云う言葉の途中から、泰さんの声ばかりでなく、もう一人誰かの声がはいりました。もっともこの声と云うのも、何と云ってい・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・なお彼は、文政十年、十六歳の春より人に代筆せしめ稽古日記を物し始めたが、天保八年、二十六歳になってからは、平仮名いろは四十八文字、ほかに数字一より十まで、日、月、同、御、候の常用漢字、変体仮名、濁点、句読点など三十個ばかり、合わせても百字に・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・ 小学教育の事 二 平仮名と片仮名とを較べて、市在民間の日用にいずれか普通なりやと尋れば、平仮名なりと答えざるをえず。男女の手紙に片仮名を用いず。手形、証文、受取書にこれを用いず。百人一首はもとより、草双紙その他、民間・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・山口氏の文章の片仮名が、丹羽氏の小説では平仮名にかかれ、いくらか内面的な記述が加わっているが。 山口一太郎氏の二・二六真相が、どうしてこういう風な形で同時にいくところへもあらわれたのだろう。中島健蔵氏が「世界への反逆」でふれているように・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・ けれ共皆悲しい事には英語で、私の読める片仮名と平仮名ではなかったので只の一字も感じる事さえ出来なかったけれ共、実にちゃんと並んである字の下に赤や青の線が随分沢山ついて居るのは全く解せない事であった。 まして、切角白くしてある所へゴ・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・古めかしい平仮名で懇に書かれたそれ等の文句には、微に詩情を動かすものさえある。けれども、私がたんのうする迄いるには、案内役に立たれた永山氏が多忙すぎる。数日の中にジャに出発されるところなのだ。福済寺、大浦、浦上天主堂への紹介を得、宿に帰った・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 奇麗な白い紙に、細い平仮名ばかりのやさしい「ふみ」であった。 何としても、あの人の病を私が明かに知って居る様な事を云えなかったので只心に浮ぶままを書きつらねて行った。小さい私の部屋の隅から隅までより倍もながかった。 じいっと、・・・ 宮本百合子 「ひととき」
出典:青空文庫