・・・ 私が年老いて心持も頭も疲れた時、尚十幾つか若くて私の世話もして呉れ、慰めても呉れ力強い相談相手になって呉れる妹が幼くてなくなった事を思えばどんな気持になるだろう。 私はただ母の手に抱かれその死を悲しむ親属の啜り泣きの裡にこの世を去・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・けれども、魔法つかいといわれた年老いた母の救いかたにおいて、宗教裁判とのたたかいかたにおいて、ケプラーのとった方法は、全く近代の科学者らしく実証的であり、科学的でその上行動的であった。ケプラーの伝記「偉大なる夢」をよんだすべての人々は、この・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・ 二人の女君は後室の妹君の娘達、二親に分れてからはこの年老いた伯母君を杖より柱よりたよって来て居られるもの、姉君を常盤の君、若やいだ名にもにず、見にくい姿で年は二十ほど、「『誘う水あらば』って云うのはあの方だ」とは口さがない召使のかげ口・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・私はゴーリキイの総体を、日向でかすかに香ばしい匂いを放っている年老いた樅の木のようだと感じた。 私たちは少しずつソヴェト文壇の話や、日本の文学のこと、ピリニャークの書いた日本印象記についての不満足な感想等を下手なロシア語で話した。ゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
出典:青空文庫