・・・勿論、これらの作と雖も或る特殊階級の人々には必要なものかも知れぬが、然し此等の作品が民衆的であるべき目的を度外視して、或る特殊な有産階級とか知識階級の為めにのみ作られるということは、頗る不合理だと思うのである。 トルストイの芸術はどんな・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・けれども、僕は前からツネちゃんをきらいじゃなかったし、それにどうもあの色男との噂が気になっていたのも事実だったから、全くツネちゃんの射的場を度外視して、門のところに立っていたと言ってもやっぱり嘘になるかも知れないね。人間の心というのは、君た・・・ 太宰治 「雀」
・・・しかしその半面の随伴現象としていわゆる骨董趣味を邪道視し極端に排斥し、ついには巧利を度外視した純知識慾に基づく科学的研究を軽んずるような事があってはならぬと思う。直接の応用は眼前の知識の範囲を出づる事は出来ない。従ってこれには一定の限界があ・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 私は自分の落度を度外視して忠実な車掌を責めるような気もなければ、電気局に不平を持ち込もうというような考えももとよりない。 しかしこの自身のつまらぬ失敗は他人の参考になるかもしれない、少なくも私のように切符の鋏穴をいじって拡げるよう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・もちろん他の週日に降る降らぬは全く度外視しての話である。 これもやはり、他の多くの場合と同様に自分の注目し期待する特定の場合の記憶だけが蓄積され、これにあたらない場合は全然忘れられるかあるいは採点を低くして値踏みされるためかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・故に各種原因の重要の度を比較して、影響の些少なるものを度外視し、いわゆる「近似」を求むるを常とす。しかしてこれら原因の取捨の程度に応じて種々の程度の近似を得るものと考う。この方法は物理的科学者が日常使用する所にして、学者にとりてはおそらく自・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 以上は乗客という因子を全然度外視しての議論であるが、次にこの因子を考慮に加えると、どうなるかという問題に移る。 乗客が単位時間内に一つの停留所に集まって来る割合は、だいたいにおいてはそれぞれの時刻と場所によりおのおの一定の平均値が・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・この場合の標準になるものは勿論単に心理学的なものの外に非科学的なものがむしろ大部分を占めているのは通例ではあるが、そうかと云って作者は、この種の作物の構成方法が上の通りである限りは、全く科学的要素を度外視する訳には行くまいと思う。従ってこの・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・最初希臘芸術によって、diviniseされた自然、仏蘭西古典文学によって度外視された自然は、ロマンチズムの熱情によって始めて humaniseせられた。しかしユウゴオやラマルチンはまだ一度も巴里郊外の自然をそが抒情詩の直接の題材にして歌った・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・余は宗教の天然説を度外視する者なれば、天の約束というも、人為の習慣というも、そのへんはこれを人々の所見にまかして問うことなしといえども、ただ平安を好むの一事にいたりては、古今人間の実際に行われて違うことなきを知るべきのみ。しからばすなわち教・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
出典:青空文庫