・・・式を挙げるに福沢先生を証人に立てて外国風に契約を交換す結婚の新例を開き、明治五、六年頃に一夫一婦論を説いて婦人の権利を主張したほどのフェミニストであったから、身文教の首班に座するや先ず根本的に改造を企てたのは女子教育であった。 優美より・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・一室に孤座する時、都府の熱閙場裡にあるの日、われこの風光に負うところありたり、心屈し体倦むの時に当たりて、わが血わが心はこれらを懐うごとにいかに甘き美感を享けて躍りたるぞ、さらに負うところの大なる者は、われこの不可思議なる天地の秘義に悩まさ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・さらば、斯く闇黒の中に坐するは、吾事業なるか――」 ずっと旧いところの稿には、こんなことも書いてある。 豪爽な感想のする夏の雨が急に滝のように落ちて来た。屋根の上にも、庭の草木の上にも烈しく降りそそいだ。冷しい雨の音を聞きながら、今・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・ただ L = 0 すなわちSKの面内に座する著名の大家を物色する事が困難である。あるいはレーリー卿のごときは少なくもこの座標軸面に近い大家であったかもしれない。 ゾンマーフェルトやその他の数理物理学者はS軸の上近くに座するものであり、純・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・尋でその舞台開の夕にも招待を受くるの栄に接したのであったが、褊陋甚しきわが一家の趣味は、わたしをしてその後十年の間この劇場の観棚に坐することを躊躇せしめたのである。その何がためなるやは今日これを言う必要がない。 今日ここに言うべき必要あ・・・ 永井荷風 「十日の菊」
出典:青空文庫