・・・馬は競馬以来廃物になっていた。冬の間稼ぎに出れば、その留守に気の弱い妻が小屋から追立てを喰うのは知れ切っていた。といって小屋に居残れば居食いをしている外はないのだ。来年の種子さえ工面のしようのないのは今から知れ切っていた。 焚火にあたっ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・面積一万五千平方マイルのデンマークにとりましては三千平方マイルの曠野は過大の廃物であります。これを化して良田沃野となして、外に失いしところのものを内にありて償わんとするのがそれがダルガスの夢であったのであります。しかしてこの夢を実現するにあ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・そのうち弟は兄のかなり廃物めいた床の間の信玄袋に眼をつけて、「兄さんの荷物はそれだけなんですか?」と、何気ない気で訊ねた。「そうだ」と、耕吉は答えるほかなかった。そして、それで想いだしたがといった風で上機嫌になって、「じつはね、・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・と宣告されたほどに破損して、この二、三年間ただ茶箪笥の上の飾り物になっていて、老母も妻も、この廃物に対して時折、愚痴を言っていたのを思い出し、銀行から出たすぐその足でラジオ屋に行き、躊躇するところなく気軽に受信機の新品を買い求め、わが家のと・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・家の道具も、たいてい廃物利用で間に合わせて居りますし、着物だって染め直し、縫い直しますから一枚も買わずにすみます。どうにでも、私は、やって行きます。手拭掛け一つだって、私は新しく買うのは、いやです。むだな事ですもの。あなたは時々、私を市内へ・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・陶工が凡庸であるためにせっかく優良な陶土を使いながらまるで役に立たない無様な廃物に等しい代物をこね上げることはかなりにしばしばある。これでは全く素材がかわいそうである。しかし学問の場合においては、いい素材というものは一度掘り出されればいつか・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ わたしは平生文学を志すものに向って西洋紙と万年筆とを用うること莫れと説くのは、廃物利用の法を知らしむる老婆心に他ならぬのである。 往時、劇場の作者部屋にあっては、始めて狂言作者の事務を見習わんとするものあれば、古参の作者は書抜の書・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・但しこれは海産物と廃物によって養う分の家畜は論外であります。然しながらそれを計算に入れても又大丈夫です。家畜だってみんな喰べるものばかりでなく羊のように毛を貰うもの馬や牛のように労働をして貰うものいろいろあります。 次に食料が半分になっ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 衣類または服装と婦人との社会的な関係をあるがままに肯定した上で、これまで整理保存の方法、縫い方、廃物利用、モードの選びについてなどが話題とされて来ている。けれども考えてみれば女性が縫物をすることになったのは一体人間の社会の歴史の中でい・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫