「――鱧あみだ仏、はも仏と唱うれば、鮒らく世界に生れ、鯒へ鯒へと請ぜられ……仏と雑魚して居べし。されば……干鯛貝らいし、真経には、蛸とくあのく鱈――」 ……時節柄を弁えるがいい。蕎麦は二銭さがっても、このせち辛さは、明日・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・新らしい波はとにかく、今しがたようやくの思で脱却した旧い波の特質やら真相やらも弁えるひまのないうちにもう棄てなければならなくなってしまった。食膳に向って皿の数を味い尽すどころか元来どんな御馳走が出たかハッキリと眼に映じない前にもう膳を引いて・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・わたしの霊はここを離れて、天の喜びに赴いても、坊の行末によっては満足が出来ないかも知れません、よっくここを弁えるのだよ……」。仰って、いまは、透き通るようなお手をお組みなされ、暫く無言でいらっしゃる、お側へツッ伏して、平常教えて下すった祈願・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫