・・・ 日をうけて赤い切地を張った張物板が、小さく屋根瓦の間に見える。―― 夜になると火の点いた町の大通りを、自転車でやって来た村の青年達が、大勢連れで遊廓の方へ乗ってゆく。店の若い衆なども浴衣がけで、昼見る時とはまるで異ったふうに身体を・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・田舎は秋晴拭うが如く、校長細川繁の庭では姉様冠の花嫁中腰になって張物をしている。 さて富岡先生は十一月の末終にこの世を辞して何国は名物男一人を失なった。東京の大新聞二三種に黒枠二十行ばかりの大きな広告が出て門人高山文輔、親戚細川繁、友人・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 丁度、お島は手拭で髪を包んで、入口の庭の日あたりの好いところで余念なく張物をしていた。彼女の友達がそこへ来た時は、「これがお島さんか」という顔付をして、暫く彼女を眺めたままで立っていた。 お島は急いで張物板を片附け、冠っていた手拭・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・あいまには、張物だ。ブルジョア、地主、坊主が、社会主義社会建設のために働くプロレタリアの鉄の鎚で、それぞれ頭をドッカン、ドッカンやつけられながら進んで来る。 ワーッ! と見物は喝采する。 先頭が赤い広場の入口で止った。後から後から、・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
出典:青空文庫