・・・「今日の当番は、伝右衛門殿ですから、それで余計話がはずむのでしょう。片岡なども、今し方あちらへ参って、そのまま坐りこんでしまいました。」「道理こそ、遅いと思いましたよ。」 忠左衛門は、煙にむせて、苦しそうに笑った。すると、頻に筆・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・そこで、当番御目付土屋長太郎、橋本阿波守は勿論、大目付河野豊前守も立ち合って、一まず手負いを、焚火の間へ舁ぎこんだ。そうしてそのまわりを小屏風で囲んで、五人の御坊主を附き添わせた上に、大広間詰の諸大名が、代る代る来て介抱した。中でも松平兵部・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・そこで働いている炊事当番の皮膚の中へまでも、それ等の臭いはしみこんでいるようだった。「豚だって、鶏だってさ、徴発して来るのは俺達じゃないか。それでハムやベーコンは誰れが食うと思う。みんな将校が占領するんだ。――俺達はその悪い役目さ。」・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・丁度自分の休暇に当ったので、事務の引続を当番の同僚に頼むつもりで書いて置いた気圧の表を念の為に読んで見た。天気、晴。気温、上昇。雲形、層、層積、巻層、巻積。よし。それで自分は小高い山の上にある長野の測候所を出た。善光寺から七八町向うの質屋の・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・ つぎには、これは築地の、市の施療院でのことですが、その病院では、当番の鈴木、上与那原両海軍軍医少佐以下の沈着なしょちで、火が来るまえに、看護婦たちにたん架をかつがせなどして、すべての患者を裏手のうめ立て地なぞへうつしておいたのですが、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・が膠着していてそれから六句目の自分の当番になって「宵々」の「あつ風呂」が出現した感がある。また同じ「夕飯」がまだまだ根を引いて「木曾の酢茎」に再現しているかの疑いがある。また後に自分の「田の青やぎていさぎよき」の心像が膠着してそれが六句目の・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・婢ノ楼ニ在ツテ客ヲ邀フルヤ各十人ヲ以テ一隊ヲ作リ、一客来レバ隊中当番ノ一婢出デヽ之ニ接ス。女隊ニ三アリ。一ヲ紅隊ト云ヒ、二ヲ緑隊、三ヲ紫隊ト云フ。各隊ノ女子ハ個々七宝焼ノ徽章ヲ胸間ニ懸ケ以テ所属ノ隊ト番号トヲ明示ス。三隊ノ女子日ニ従テ迎客ノ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・すこぶる真面目な顔をしているが、早く当番を済まして、例の酒舗で一杯傾けて、一件にからかって遊びたいという人相である。塔の壁は不規則な石を畳み上げて厚く造ってあるから表面は決して滑ではない。所々に蔦がからんでいる。高い所に窓が見える。建物の大・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・一、社中に入らんとする者は、芝新銭座、慶応義塾へ来り、当番の塾長に謀るべし。一、義塾読書の順序は大略左の如し。社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費す。三ヶ月終りて、地理書・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・今芳子さんが自分と一緒にいないのは、彼女が当番で、次の理科の時間に使う標本を、先生のお手伝で揃えているからなのです。「芳子さんは親切な好い方よ」と政子さんは云うべきなのだと云う事は解っていましたが、友子さんが、大きな二つの眼で自分を凝と見詰・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
出典:青空文庫