・・・徒に、むつかしい文句をひねりまわしたところで、何等役に立つものではない。 何故、俺等は貧乏するか。 どうすれば貧乏から解放されるか。 それを十分具体的にのみこませた上でなければ、百姓は立ち上って来ないのである。 無産・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・また役に立つ日も来るだろう。」 とうとう私には娘のわがままを許せるほどのはっきりした理由も見当たらずじまいであった。私は末子の「洋服」を三郎の「早川賢」や「木下繁」にまで持って行って、娘は娘なりの新しいものに迷い苦しんでいるのかと想って・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・三郎の好みで、二枚の座ぶとんの更紗模様も明るい色のを造らせた。役に立つか立たないかしれないような古い椅子や古い時計の家にあったのも分けた。持たせてやるものも、ないよりはまだましだぐらいの道具ばかり、それでも集めて、荷物にして見れば、洗濯した・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・私は貴下が好きなので、如上の自分の喜びを頒つ意味と、若し秋田さんの話が貴下に初耳ならば、御仕事をなさる上にこの御知らせが幾分なりとも御役に立つのではないかと実はこの手紙を書きました。そうして、貴下の潔癖が私のこのやりかたを又怒られるのではな・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・すこしでも、人のお役に立つことは、うれしいものだ。けれども、伊藤先生と二人で向かい合っていると、とても疲れる。話がねちねちして理窟が多すぎるし、あまりにも私を意識しているゆえか、スケッチしながらでも話すことが、みんな私のことばかり。返事する・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ざいましょうし、また、私のようなものでも顔を出して何やら文化に就いて一席うかがいますと、それでどうやら四方八方が円満に治るのだから是非どうぞ、と頼まれますると、私といたしましても、この老骨が少しでもお役に立つのは有りがたく、かたじけなしと存・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・手工は勿論高等教育を受けるための下地にはならないでも、人間として立つべき地盤を拡げ堅めるために役に立つ。普通学校で第一に仕立てるべきものは未来の官吏、学者、教員、著述家でなくて「人」である。ただの「脳」ではない。プロメトイスが最初に人間に教・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それで、これは夏目先生に関する一つの資料として保存しておけば他日きっと役に立つ機会があるであろうと思ったので、当時の大学理学部物理教室の自室の書卓の抽斗しの中に他の大事な手紙と一緒に仕舞い込んでおいた。 ところが、その後間もなく自分は胃・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・しかしながら不幸にして皇后陛下は沼津に御出になり、物の役に立つべき面々は皆他界の人になって、廟堂にずらり頭を駢べている連中には唯一人の帝王の師たる者もなく、誰一人面を冒して進言する忠臣もなく、あたら君徳を輔佐して陛下を堯舜に致すべき千載一遇・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・が、役に立つと同時に害をなす事も明かなんだから、開化の定義と云うものも、なるべくはそう云う不都合を含んでいないように致したいのが私の希望であります。が、そうするとボンヤリして来る。恨むらくはボンヤリして来る。けれどもボンヤリしてもほかのもの・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫