・・・家に遺伝の遺産ある者、又高運にして新に家を成したる者、政府の官吏、会社の役人、学者も医者も寺の和尚も、衣食既に足りて其以上に何等の所望と尋ぬれば、至急の急は則ち性慾を恣にするの一事にして、其方法に陰あり陽あり、幽微なるあり顕明なるあり、所謂・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・をしてますます実ならしめ、細大洩らさず、すべて実際の知見を奨励し、満塾の学生をして即身実業の人とならしめ、かの養蚕の卵より卵を生ずるに等しく、本塾に卒業したる者がただわずかに学校の教師となるか、または役人となりて、孤児・寡婦の生計を学ぶなど・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・その着こなしも風采も恩給でもとっている古い役人という風だった。蕗を泉に浸していたのだ。(青金の鉱山できいて来たのですが、何でも鉱山の人たちなども泊 老人はだまってしげしげと二人の疲れたなりを見た。二人とも巨きな背嚢をしょって地図・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・ ところが仲々、お役人方の苦心は、新聞に出ているくらいのものではありませんでした。その研究中の一つのはなしです。 工芸学校の先生は、まず昔の古い記録に眼をつけたのでした。そして図書館の二階で、毎日黄いろに古びた写本をしらべているうち・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・きのうのNHKは、警視庁の役人をマイクに立たせて、減刑運動をとりしまる規則はないし、減刑運動の背後にある思想も言論の自由の立場からとりしまることができない。減刑運動は全国的にひろがってゆく模様だが、国民の冷静な判断にまつよりしかたがない、と・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・同じ事情におかれた評論家の中には、早速内務省へ個別的に自分の思想的立場を釈明した文書を出した人があり、そういう人にはすぐ特別のはからいをしたという役人の言葉であった。 中野も私も、そういうことはしまいということに相談をきめた。そして、一・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・しかしその頃から役人をしているので、議論をすれば著作が出来なかった。復活してからは、下手ながらに著作をしているので、議論なんぞは出来ないのである。 その日の文芸欄にはこんな事が書いてあった。「文芸には情調というものがある。情調は s・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・若者の方でも女が人がよくて、優しくて、美しいので、お役人の所に連れて行って夫婦にして貰った。 ツァウォツキイはそれからも身持を変えない。ある時はどこかの見せ物小屋の前に立って客を呼んでいることもあるが、またある時は何箇月立っても職業なし・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
保険会社の役人テオドル・フィンクは汽車でウィインからリヴィエラへ立った。途中で旅行案内を調べて見ると、ヴェロナへ夜中に着いて、接続汽車を二時間待たなくてはならないということが分かった。一体気分が好くないのだから、こんなことを見付けて見・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・しかもそこに描かれている世界は、衣裳、風俗から役人の名に至るまで、全然『源氏物語』ふうであって、インドを思わせるものは何もないのである。 女主人公は観音の熱心な信者である一人の美しい女御である。宮廷には千人の女御、七人の后が国王に侍して・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫