・・・元村長をした人の後家のところでは一晩泊って、綿入れの着物と毛糸で編んだ頭巾とを貰った。古びた信玄袋を振って、出かけてゆく姿を、仙二は嫌悪と哀みと半ばした気持で見た。「ほ、婆さま真剣だ。何か呉れそうなところは一軒あまさずっていう形恰だ」・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・たとえば「後家のがんばり」というこの小説の世界にとって重要なモメントとなっている女性の生活闘争の傷痕の問題や、プロレタリア前衛党が再結集されてゆく過程及びその階級活動全般における各種の専門活動の関係とその評価についての問題。日本の監獄が治安・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・行ってみたらば姑に当る四十こした後家が水色のゆもじを出して立て膝で酒をのみ、毎晩ばくちを打つ。その上、はたできいている子供たちには諒解されないもっといやなことがあって、龍ちゃんがインバネスをきたまま火鉢にまたがるようにして、母に「いくら俺が・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ お繁婆さんが永い事かかってカステラを喰べ幾重にも礼をのべて帰った後から、元、小学校の教師か何かして居た人の後家が前掛をかけて前の方に半身を折りかぶせた様にして来た。何でもない、只町に新らしい芝居のかかった事とこの暮に除隊になる、自分の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「あれは、後家の女主人公が、うんと働いて稼ぐけれども、それで自分もはたも不幸になってゆく話だったろう?」「そうだわ」 ちょっと黙って、重吉は、ごく普通な調子で座席からひろ子を見ながら、「ひろ子に、なんだか後家のがんばりみたい・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・一番年かさなのは後家で酒飲みの裁縫女の息子グリーシュカ。これは分別の深い正しい人間で、熱情的な拳闘家である。 後年、ゴーリキイは当時を回想して書いている。かっ払いは「半飢の小市民にとって生活のための殆ど唯一の手段、習慣となっていて、罪と・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 五助は身分の軽いものではあるが、のちに殉死者の遺族の受けたほどの手当は、あとに残った後家が受けた。男子一人は小さいとき出家していたからである。後家は五人扶持をもらい、新たに家屋敷をもらって、忠利の三十三回忌のときまで存命していた。五助・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ツォウォツキイは工場で「こちらで働いていました後家のツァウォツキイと申すものは、ただ今どこに住まっていますでしょうか」と問うた。 住まいは分かった。ツァウォツキイはまた歩き出した。 ユリアは労働者の立てて貰う小家の一つに住んでいる。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫