・・・互に手を取って後来を語ることも出来ず、小雨のしょぼしょぼ降る渡場に、泣きの涙も人目を憚り、一言の詞もかわし得ないで永久の別れをしてしまったのである。無情の舟は流を下って早く、十分間と経たぬ内に、五町と下らぬ内に、お互の姿は雨の曇りに隔てられ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・私もお前さんのことについちゃア、後来何とでもしようから」「しかたがありません、断念らないわけには行かないのだから。もう、音信も出来ないんですね」「さア。そう思ッていてもらわなければ……」と、西宮も判然とは答えかねた。 吉里はしば・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・かつまた、後来この挙に傚い、ますますその結構を大にし、ますますその会社を盛んにし、もって後来の吾曹をみること、なお吾曹の先哲を慕うが如きを得ば、あにまた一大快事ならずや。ああ吾が党の士、協同勉励してその功を奏せよ。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・この特徴は、多少形を変えてはいるが、後来日本に発生したあらゆる宗教に必ず現われている。たとえば、日蓮宗や念仏宗におけるディオニゾス的な、宗教的歓喜のごとき、その著しい例である。しかし後に現われたものがかなり強く実践的であるに反して、上代のも・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫