・・・ また上野殿への返書として、「鎌倉にてかりそめの御事とこそ思ひ参らせ候ひしに、思ひ忘れさせ給はざりける事申すばかりなし。故上野殿だにもおはせしかば、つねに申しうけ給はりなんと嘆き思ひ候ひつるに、御形見に御身を若くしてとどめ置かれける・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ おしい事じゃ、ほんにおしい事じゃ、お主の侍るお主――ダイアナ神は御事のために命をすてて御下さらんじゃろがここに居る三人の精霊――世の中にあるだけの精霊は皆お主のためなら命までもと云うておるじゃ。まして私共の様に白髪のない栗色の髪の房々した・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・法 したが世の中はその方が良い事が多うござってのう、一概には得申されぬもので……王 おお、わしが気がつかなんだが御事の御出でやった事には幾重に礼事を申さねばならぬ事らしいのう。法 否、わしは母御の頭から生れたものと見え申し・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・床の間に並べ有之候御位牌三基は、某が奉公仕りし細川越中守忠興入道宗立三斎殿御事松向寺殿を始とし、同越中守忠利殿御事妙解院殿、同肥後守光尚殿御三方に候えば、御手数ながら粗略に不相成様、清浄なる火にて御焼滅下されたく、これまた頼入り候。某が相果・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫