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・・・旦那様がちょいと御店へ、いらして下さいっておっしゃっています。」「はい、はい、今行きます。」 叔母は懐炉を慎太郎へ渡した。「じゃ慎ちゃん、お前お母さんを気をつけて上げておくれ。」 叔母がこう云って出て行くと、洋一も欠伸を噛み・・・
芥川竜之介
「お律と子等と」
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・・・そうして是非一度若旦那に御目にかかって、委細の話をしたいのだが、以前奉公していた御店へ、電話もまさかかけられないから、あなたに言伝てを頼みたい――と云う用向きだったそうです。逢いたいのは、こちらも同じ思いですから、新蔵はほとんど送話器にすが・・・
芥川竜之介
「妖婆」