・・・ もし、まだ片のつかないものがあるとすれば、それは一党四十七人に対する、公儀の御沙汰だけである。が、その御沙汰があるのも、いずれ遠い事ではないのに違いない。そうだ。すべては行く処へ行きついた。それも単に、復讐の挙が成就したと云うばかりで・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・清八は取り敢ず御鷹匠小頭より、人を把るよしを言上しけるに、そは面白からん、明日南の馬場へ赴き、茶坊主大場重玄を把らせて見よと御沙汰あり。辰の刻頃より馬場へ出御、大場重玄をまん中に立たせ、清八、鷹をと御意ありしかば、清八はここぞと富士司を放つ・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
御手紙を難有う。『立像』の新短歌について何か思ったことを書けとの御沙汰でしたから手近にあった第三号をあけてはじめから歌だけ拾って読んで行きました。読んでいるうちにふと昨夜見た夢を想い出したのです。 見知らぬ広い屋敷の庭・・・ 寺田寅彦 「御返事(石原純君へ)」
・・・それを聞いた弥五兵衛以下一族のものは門を閉じて上の御沙汰を待つことにして、夜陰に一同寄り合っては、ひそかに一族の前途のために評議を凝らした。 阿部一族は評議の末、このたび先代一週忌の法会のために下向して、まだ逗留している天祐和尚にすがる・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・某へは三斎公御名忠興の興の字を賜わり、沖津を興津と相改め候様御沙汰有之候。 これより二年目、寛永三年九月六日主上二条の御城へ行幸遊ばされ妙解院殿へかの名香を御所望有之すなわちこれを献ぜらるる、主上叡感有りて「たぐひありと誰かはいはむ末に・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・まだなんの御沙汰もございません。お役人方に伺いましたが、多分忌中だから御沙汰がないのだろうと申すことで」 九郎右衛門は眉間に皺を寄せた。暫くして、「大きい車は廻りが遅いのう」と云った。 それから九郎右衛門は、旅の支度が出来たかと問う・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・また総本山東大寺に訴えたら、都からどのような御沙汰があろうも知れぬ。そこをよう思うてみて、早う引き取られたがよかろう。悪いことは言わぬ。お身たちのためじゃ」こう言って律師はしずかに戸を締めた。 三郎は本堂の戸を睨んで歯咬みをした。しかし・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・それには、ただ今天皇陛下から拝謁の御沙汰があって参内して来ましたばかりです。涙が流れて私は何も申し上げられませんでしたが、私に代って東大総長がみなお答えして下さいました。近日中御報告に是非御伺いしたいと思っております。とそれだけ書いてあった・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫