・・・(時に、はじめてフト自分の他に、烏の姿ありて立てるに心付く。されどおのが目を怪む風情。少しずつ、あちこち歩行く。歩行くに連れて、烏の形動き絡うを見て、次第に疑惑を増し、手を挙ぐれば、烏等も同じく挙げ、袖を振動かせば、斉しく振動かし、足を爪立・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ 無理之助が現れて、さては騙かれたかと心付く辺以下もよかった。「極楽の鬼」 第一の感じ。随分賑やかなのに、何故がらんとして立体的でないのだろう。地下室の酒場らしい濃厚な陰翳がなさすぎる。周囲の高い壁がさっぱりしすぎている。声と姿・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・現代は、自分の持っている勘と自覚されるものを、客観的に、歴史性の上にとり出して調べて見ようとする、その必要に心付く勘というものが、より重大な人間的役割をもっているのではなかろうか。保田氏は明かに自身の勘にたよって、昨今の諸文章を執筆しておら・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫