・・・文明は益々進歩し、物質的には公衆衛生の知識愈々発達し、一切公共の設備の安固なるは元より、各個人の衣食住も極めて高等・完全の域に達すると同時に、精神的にも常に平和・安楽にして、種々なる憂悲・苦労の為めに心身を損うが如きことなき世の中となれば、・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 私は享楽のために、一本の注射打ちたることなし。心身ともにへたばって、なお、家の鞭の音を背後に聞き、ふるいたちて、強精ざい、すなわち用いて、愚妻よ、われ、どのような苦労の仕事し了せたか、おまえにはわからなかった。食わぬ、しし、食った・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・御馳走の直接の結果であるか、それとも御馳走に随伴する心身の疲労のためだかその点は分からないが、とにかく事実そういう場合が多いらしい。 昔から、粗食が長寿の一法だとの説がある。これは考えてみると我がM君の説を裏側から云ったもののように思わ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・金沢にいた十年間は私の心身共に壮な、人生の最もよき時であった。多少書を読み思索にも耽った私には、時に研究の便宜と自由とを願わないこともなかったが、一旦かかる境遇に置かれた私には、それ以上の境遇は一場の夢としか思えなかった。然るに歳漸く不惑に・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・男女婚姻して一家に同居し、内外を区分しておの/\其一半を負担し、共に苦楽を与にして心身を労すること正しく同一様なるに、何が故に之を君臣主従の如くならしめんとするか、無稽も亦甚しと言う可し。或は戸外の業務は内事に比して心労大なり、其成跡も又大・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・月見なり、花見なり、音楽舞踏なり、そのほか総て世の中の妨げとならざる娯しみ事は、いずれも皆心身の活力を引立つるために甚だ緊要のものなれば、仕事の暇あらば折を以て求むべきことなり。これを第五の仕事とすべし。 右の五ヶ条は、いやしくも人間と・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・知り、双方共にさらりと前世界の古証文に墨を引き、今後期するところは士族に固有する品行の美なるものを存して益これを養い、物を費すの古吾を変じて物を造るの今吾となし、恰も商工の働を取て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中文明の魁たらんこ・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・よくその子の性質を察して、これを教えこれを導き、人力の及ぶ所だけは心身の発生を助けて、その天稟に備えたる働きの頂上に達せしめざるべからず。概していえば父母の子を教育するの目的は、その子をして天下第一流の人物、第一流の学者たらしめんとするにあ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・悪を懲らし害を防ぎて、もって心身の平安を助くるのみ。経済、何のためにするや。人工を便利にして形体の平安を増すのみ。されば平安の主義は人生の達するところ、教育のとどまるところというも、はたして真実無妄なるを知るべし。 人あるいはいわく、天・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・その有様は、心身に働なき孤児・寡婦が、遺産の公債証書に衣食して、毎年少々ずつの金を余ますものに等し。天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫