・・・ 文壇というものがあって、そこに於て取扱われる問題は、何なりとも、私は、それに係わらず、自己の思念を抂げず、広い社会に向って、呼びかける――それを直に芸術ときめて来たのです。 現在芸術に於て取扱われているもの、一つとして人生のためな・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・是等のことは、人間生活を思念することから、即ち、社会のために民衆のために、我等理想のためにということから、はなれて自己満足のために、愛欲の生活のために若くは、自己韜晦のために、筆を採るというように、作家の意気を失墜するものがあると考えられる・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・私は、今まで六回、たいへん下手で赤面しながらも努めて来たのは、私のその愚かな思念の実証を、読者にお目にかけたかったが為でもあります。私は、間違っているでしょうか。 これは非常に、こんぐらかった小説であります。私が、わざとそのように努めた・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・おれは滅亡の民であるという思念一つが動かなかった。早く死にたい願望一つである。おのれひとりの死場所をうろうろ捜し求めて、狂奔していただけの話である。人のためになるどころか、自分自身をさえ持てあました。まんまと失敗したのである。そんなにうまく・・・ 太宰治 「花燭」
・・・』先夜ひそかに如上の文章を読みかえしてみて、おのが思念の風貌、十春秋、ほとんど変っていないことを知るに及んで呆然たり、いや、いや、十春秋一日の如く変らぬわが眉間の沈痛の色に、今更ながらうんざりしたのである。わが名は安易の敵、有頂天の小姑、あ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・その床几の上に、あぐらをかいて池の面を、ぼんやり眺め、一杯のおしるこ、或は甘酒をすするならば、私の舌端は、おもむろにほどけて、さて、おのれの思念開陳は、自由濶達、ふだん思ってもいない事まで、まことしやかに述べ来り、説き去り、とどまるところを・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・的言イアテルヨリハ、ワガ思念開陳ノ体系、筋ミチ立チテ在リ、アラワナル矛盾モナシ、一応ノ首肯ニ価スレバ、我事オワレリ、白扇サットヒライテ、スネノ蚊、追イ払ウ。「ナルホド、ソレモ一理窟。」日本、古来ノコノ日常語ガ、スベテヲ語リツクシテイル。首尾・・・ 太宰治 「創生記」
・・・どうにかなろうという無能な思念で、自分の不安を誤魔化していた。明日に就いての心構えは何も無かった。何も出来なかった。時たま、学校へ出て、講堂の前の芝生に、何時間でも黙って寝ころんでいた。或る日の事、同じ高等学校を出た経済学部の一学生から、い・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・健全の思念は、そのあとから、ぞろぞろついて来て呉れる。尼になるお光よりは、お染を、お七を、お舟を愛する。まず、試みよ。声の大なる言葉のほうが、「真理」に化す。ばか、と言われた時には、その二倍、三倍の大声で、ばか、と言い返せよ。論より証拠、私・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・シテ、腐リカケタル杉ノ大木、根株ニマツワリ、ヘバリツイテイル枯レタ蔦一スジヲ、ステッキデパリパリ剥ギトリ、ベツダン深キ意味ナク、ツギニハ、エイット大声、狐ノ石像ニ打ッテカカッテ、コレマタ、ベツダン高イ思念ノ故デナイ。ユライ芸術トハ、コンナモ・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
出典:青空文庫