・・・それから帰りに奈良へ寄って其処から手紙をよこして、恩借の金子は当地に於て正に遣い果し候とか何とか書いていた。恐らく一晩で遣ってしまったものであろう。 併し其前は始終僕の方が御馳走になったものだ。其うち覚えている事を一つ二つ話そうか。正岡・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
・・・学資欠乏し、郷里の大塚氏より十ヵ月間恩借。 一九一五年。大学卒業。井上正夫を浅草に出演せしむる橋渡しをする。同一座の作者となったが、二月目に意見の衝突をして飛び出し、その暮、秋月、川上、喜多村一座の作者となり、舞台監督をやる。 一九・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・その御返事はいずれ恩借の金子を持参した上で、改て申上げる。親しい間柄と云いながら、今晩わざわざ請待した客の手前がある。どうぞこの席はこれでお立下されい」と云った。 下島は面色が変った。「そうか。返れと云うなら返る。」こう言い放って立ちし・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫