・・・その結果として、自然の充分な恩恵を甘受すると同時に自然に対する反逆を断念し、自然に順応するための経験的知識を集収し蓄積することをつとめて来た。この民族的な知恵もたしかに一種のワイスハイトであり学問である。しかし、分析的な科学とは類型を異にし・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・すなわち天与の恩恵にして、耕して食い、製造して用い、交易して便利を達す。人生の所望この外にあるべからず。なんぞ必ずしも区々たる人為の国を分て人為の境界を定むることを須いんや。いわんやその国を分て隣国と境界を争うにおいてをや。いわんや隣の不幸・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・それをどう斯う云うのは恩恵深き自然に対して正しく叛旗をひるがえすものである。よしたまえ、ビジテリアン諸君、あんまり陰気なおまけに子供くさい考は。」「ふん。今度のパンフレットはどれもかなりしっかりしてるね。いかにも誰もやりそうな議論だ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・人情の内容は、出来るだけ怠けて楽をしたいという人情から、死んでもそんな奴の恩恵にはあずかりたくないという気概の領域にまで及んでいる。私たちは、一人の女として、作家として、今日人情のどういう程あいのところを生きるか、また、社会の現実との交渉の・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・その場合には、客観的にその社会がある水準に達している文明の恩恵に直接浴していない一群の人々がその社会の内にあることや、その文明のつくられた意味、価値をまるで知らずあるいは知ろうとせず単に生活上の便宜として日常へその成果をとり入れているだけの・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫