・・・富農に買われる酔いどれの悪党としてはあつらえむきの兵士コスチンがある。 七月半ばロマーシがカザンへ行った留守に、イゾートが殺された。ゴーリキイの心を魅していたヴォルガの漁師は、頭をうしろから破られ、ボートの底に穴をあけられて、死んだ。水・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 白百合の様な姿とダイヤの様なかがやかしい貴い気持をもったリジヤ姫、男獅子よりも強い忠僕のウリセス、ラクダの様な猿の様な狐の様な鼻まがりの悪党のチロポンピヤ、ビニチュース、ネロ、ペテロ、そうした人達の間に生れて来る大きな尊い芸術的な悲劇・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ 彼奴がわしを見たッて、あの悪党が。彼奴はわしが、そらここにこの糸を拾ったの見ただ、あなた。』 ポケットの底をさぐって、かれは裡から糸の切れくずを引きだした。 しかし市長は疑わしそうに頭を振った、『信用のあるマランダンが手帳とこ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・「本当に小川さんは、優しい顔はしていても悪党だわねえ。」小川と云うのは記者の名である。 小川は急所を突かれたとでも云うような様子で、今まで元気の好かったのに似ず、しょげ返って、饌の上の杯を手に取ったのさえ、てれ隠しではないかと思われた。・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・ウルサイ人間とばかな人間との群れに悪党が出没して、真面目に生きようとすると神経衰弱になる。樗牛は「吾人はすべからく現代を超越せざるべからず」とて神経衰弱に縄を張った。あに計らんやからめ手は肺病に破られて、樗牛はどうしても真面目に生きねばなら・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫