・・・それならば、殿様が勝ち、家来が負けるというのは当然の事で、後でごたごたの起るべき筈は無いのであるが、やっぱり、大きい惨事が起ってしまった。殿様が、御自分の腕前に確乎不動の自信を持っていたならば、なんの異変も起らず、すべてが平和であったのかも・・・ 太宰治 「水仙」
・・・実に驚くべく非科学的なる市民、逆上したる街頭の市民傍観者のある者が、物理学も生理学もいっさい無視した五階飛び降りを激励するようなことがなかったら、あたら美しい青春の花のつぼみを舗道の石畳に散らすような惨事もなくて済んだであろう。このようにし・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・現実の非惨事のこれだけの現象主義的把握は一応大衆作家でもやるのである。われわれに必要なのは、そのようにして女房まで発狂させられた三次が、戦争に対し、政府に対し、どんなにこれまでと違う心持を抱くようになって来たか。三次のその不幸はまた部落民の・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・だから、戦争という大惨事が発生すれば必ずその半面には、国際間の戦わざる面――平和の要素の強い発動がおこって来る。これは、人類の自然だと思う。どんな人でも、病気がおこればそれを癒し、且つ二度とそんな病気にかからないようにしようとするにきまって・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫