・・・経済の枢軸の廻転は民衆にとっては増税としてのみ最もはっきり感得されるという状態である。小説は、果してこの急激な底潮を感じさせる時代の空気と動向とを芸術化しているであろうか。 文学の仕事に従事するのは何時の時代にもそれぞれの階級の知識的な・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・と同様に、現実的な人間像への芸術的肉迫を回避して、自我の意識の中で主観的に或はロマンティックに感得されている知性である。文学の傾向としてこの二者が当時相呼応するものとして現れたのには当然の理由があった。 この前後に小林秀雄が評論家として・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・この態度が、右のごとき焦点をきめずに、ありのままに感得した美を描いて、おのずからに情趣を滲み出させる態度と異なっている事は言うまでもなかろう。 もっと具体的に言えば、氏はその幾分浪漫的な感情を満足させるような景色でなければ描く気にならな・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・子供の価値感がそれを直接に感得したのであろうか。もし色の美しさがその決定者であったならば、そうも言えるであろう。しかし赤茸の美しい色は非価値であった。色の美しさではなく味のよさに着目するとしても、子供には初茸の味と毒茸の味とを直接に弁別する・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・我々は外形に現われたものを感覚し、知覚するとともに、この外形を象徴として現われて来る内部の生命を感得する。我々が自然を認識するのはこの両様の意味を含んでいる。すなわち外形はそれと全然似よりのない、性質の違ったものを我々に認識させるのである。・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・我々はそれほどの不思議、それほどの意味を持ったものに日常触れていながら、それを全然感得しないでいたのである。寺田さんはこの色盲、この不感症を療治してくれる。この療治を受けたものにとっては、日常身辺の世界が全然新しい光をもって輝き出すであろう・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・そうして相手の心を細かい隅々にわたって感得する。先生の心臓は活発にそれに反応するが、しかし先生はそれだけを露骨に発表することを好まなかった。先生は親切を陰でする、そうして顔を合わせた時にその親切について言及せられることを欲しない。先生にとっ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・人類を自己の内に切実に感ずるとき、価値の階級は初めて如実に感得せられる。低劣なる価値に没頭して一切の高き価値に無関心なる雰囲気においては、価値は明らかに逆倒せられ人類の意志は歪にせられている。岸田君のいわゆる「世界の美術の病気」とはこれであ・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
・・・自然の美に酔いては宇宙に磅たる悲哀を感得し、自然の寂寥に泣いては人の世の虚無を想い来世の華麗に憧憬す。胸に残るただ一つは花の下にて春死なんの願いである。西行はかく超越を極めた。しかれども霊的執着は薄弱である。彼の蹈む人道は誠に責任を無視して・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫