・・・女子結婚の後は自から其家事に忙しく、殊に子供など産れたる上は外出は自然乙甲なれども、父母を親しみ慕うは人間の情にして又決して悪しき事にあらざれば、家事の都合次第、叶うことならば忘れぬように毎々里の家を尋ねて両親の機嫌を伺い、共に飲食などして・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・主人は以前の婢僕を誉め、婢僕は先の旦那を慕う。ただに主僕の間のみならず、後妻をめとりて先妻を想うの例もあり。親愛尽きはてたる夫婦の間も、遠ざかればまた相想うの情を起すにいたるものならん。されば今、店子と家主と、区長と小前と、その間にさまざま・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・かつまた、後来この挙に傚い、ますますその結構を大にし、ますますその会社を盛んにし、もって後来の吾曹をみること、なお吾曹の先哲を慕うが如きを得ば、あにまた一大快事ならずや。ああ吾が党の士、協同勉励してその功を奏せよ。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・ さっき触れた朝日新聞の諸家の見解の中で山脇高女の先生である竹田菊子氏が、男装のレビューガール等を慕うのは「この頃は昔と違って結婚年齢がおくれているから、結婚まで一つの遊戯をしようと考えているのではなかろうか」と述べていられるのは、・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ただ可愛がられる娘、父を慕う娘、そういう関係は永い歳月のうちに次第に変化もし、成長した。この三四年間には父と一緒に過す楽しい数時間、或は真面目に落着いた短い会話が、揺がぬ充実感で互を満すところまで高まっていた。言葉で云いつくせない人間として・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫