・・・いわゆる教育なるものは則ち能力の培養にして、人始めて生まれ落ちしより成人に及ぶまで、父母の言行によって養われ、あるいは学校の教授によって導かれ、あるいは世の有様に誘われ、世俗の空気に暴されて、それ相応に萌芽を出し生長を遂ぐるものなれば、その・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ その趣は、老成人が少年に向い、直接にその遊冶放蕩を責め、かえって少年のために己が昔年の品行を摘発枚挙せられ、白頭汗を流して赤面するものに異ならず。直接の譴責は各自個々の間にてもなおかつ効を見ること少なし。いわんや天下億万の後進生に向っ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・それから食べ物がなくなると殺 須利耶さまは何気ないふうで、そんな成人のようなことを云うもんじゃないとは仰っしゃいましたが、本統は少しその天の子供が恐ろしくもお思いでしたと、まあそう申し伝えます。 須利耶さまは童子を十二のとき、少し離・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは田園の新鮮な産物である。われらは田園の風と光の中からつややかな果実や、青い蔬菜といっしょにこれらの心象スケッチを世間に提供するものである。注文の多い料理店はその十二巻のセリー・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓しているほか、その青年たちが成人したときその世代の文化的創造力を溌溂旺盛ならしめるために、どんな独創の可能を培いつつあるのだろ・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・なぜなら、こんにち十八歳になった日本の青年男女たちは、いちども、こういう事実は見知らされないで成人して来なければならなかったのだから。そして、青春こそ、いつも歴史の英雄であり得るとともに、いたましい犠牲でもあるのだから。わたしはこの一冊を、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・夫人、成人して若い妻となっている令嬢、その良人その他幼い洋服姿の男の子、或は先夫人かと思われるような婦人まで、正座の画家をめぐって花で飾られたテーブルのまわりをきっしりととりかこんでいるのである。 一応は和気藹々たるその光景は、主人公が・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・文化関係で、ラジオの民主化のための放送委員会、軍国主義の出版統制の遺風を民主化するための用紙割当委員会、出版文化委員会、教育の民主化、成人教育のための社会教育委員会、そのほか一九四六年から次の年の春までぐらいにつくられた委員会の多くは、正直・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・嫡子光尚の周囲にいる少壮者どもから見れば、自分の任用している老成人らは、もういなくてよいのである。邪魔にもなるのである。自分は彼らを生きながらえさせて、自分にしたと同じ奉公を光尚にさせたいと思うが、その奉公を光尚にするものは、もう幾人も出来・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・祈り終って声は一層幽に遠くなり、「坊や坊には色々いい残したいことがあるが、時迫って……何もいえない……ぼうはどうぞ、無事に成人して、こののちどこへ行て、どのような生涯を送っても、立派に真の道を守ておくれ。わたしの霊はここを離れて、天の喜びに・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫