・・・「この国の霊と戦うのは、……」 オルガンティノは歩きながら、思わずそっと独り語を洩らした。「この国の霊と戦うのは、思ったよりもっと困難らしい。勝つか、それともまた負けるか、――」 するとその時彼の耳に、こう云う囁きを送るもの・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・しかし僕にのしかかって来る眠気と闘うのは容易ではなかった。僕は覚束ない意識の中にこう云う彼の言葉を聞いたりした。「I detest Bernard Shaw.」 しかし僕は腰かけたまま、いつかうとうと眠ってしまった。すると、――おの・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・むかしのもの語にも、年月の経る間には、おなじ背戸に、孫も彦も群るはずだし、第一椋鳥と塒を賭けて戦う時の、雀の軍勢を思いたい。よしそれは別として、長年の間には、もう些と家族が栄えようと思うのに、十年一日と言うが、実際、――その土手三番町を、や・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・私の望むのは少数とともに戦うの意地です。その精神です。それはわれわれのなかにみな欲しい。今日われわれが正義の味方に立つときに、われわれ少数の人が正義のために立つときに、少くともこの夏期学校に来ている者くらいはともにその方に起ってもらいたい。・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 今度の戦争の事に対しても、徹底的に最後まで戦うということは、独逸が勝っても、或は敗けても、世界の人心の上にはっきりした覚醒を齎すけれども、それがこの儘済んだら、世界の人心に対して何物をも附与しないであろう。・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・おまえが騒ぎ狂いたいと思ったなら、高い山の頂へでも打衝るがいい、それでなければ、夜になってから、だれもいない海の真ん中で波を相手に戦うがいい。もうこの小さな木の芽をいじめてくれるな。」と、太陽はいいました。 風は、太陽に向かって飛びつき・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・攻撃の速度を急ぐ相懸り将棋の理論を一応完成していた東京棋師の代表である木村を向うにまわして、二手損を以て戦うのは、何としても無理であった。果してこの端の歩突きがたたって、坂田は惨敗した。が、続く対花田戦でも、坂田はやはり第一手に端の歩を突い・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・―― 睡魔と闘うくらい苦しいものはない。二晩も寝ずに昼夜打っ通しの仕事を続けていると、もう新吉には睡眠以外の何の欲望もなかった。情欲も食欲も。富も名声も権勢もあったものではない。一分間でも早く書き上げて、近所の郵便局から送ってしまうと、・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・に志願で行くものは四五人とあるかなし、大抵は皆成ろう事なら家に寝ていたい連中であるけれど、それでも善くしたもので、所謂決死連の己達と同じように従軍して、山を超え川を踰え、いざ戦闘となっても負けずに能く戦う――いや更と手際が好いかも知れぬてな・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・妄想で自らを卑屈にすることなく、戦うべき相手とこそ戦いたい、そしてその後の調和にこそ安んじたいと願う私の気持をお伝えしたくこの筆をとりました。――一九二五年十月―― 梶井基次郎 「橡の花」
出典:青空文庫