・・・ 第二次大戦、ファシズムの惨禍を、日本の戦時的日常の現実を、通じて生死しながら、精神では大戦前のレジスタンスを知らないフランス文学に国内亡命をしていた人々の矛盾は、おそらくその人々に自覚されているよりも激しく、こんにち日本の文学に国内亡・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・人民の所得は戦前の百倍と査定している政府が、百二十六倍の税額を払わせる時、私たちの文化費はどこに残るでしょう。文化と文学の発展は、社会の生産や権力の性質とこんなにも切りはなせないものだということを、本年度はすべての人が切実に発見する年でもあ・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ 交錯する諸傾向 ジャーナリズムの上にこのようにして再登場してきた既成諸作家一人一人の傾向はたがいに錯雑しています。戦前のようではなく、戦争中のままではもとよりなく、さりとて、ほんとうに民主的になろうとし、旧套・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・そのかわり、大規模な金と力で行うその作業に便乗して、原地の独占資本家たちである日本の資本家も、戦前に比べてより少いとは云えない利潤を吸いあげてゆく可能性を見出した。 国庫予算の中でも終戦処理費があまり厖大であるためにわれわれ人民は各・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・労働賃銀は戦前の二十七倍だのに、物価は六十五倍から七十五倍となっています。そして、政府は、日本の人民所得額は戦前の百倍と査定しているのに税率は百二十六倍になっています。このひらきを、私たちはどうやりくって来たのでしょう。ここに人間業と思われ・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・もちろんそれぞれの作品には、出来、不出来もあり、むらもあるけれども、それらを一貫して明瞭な階級性があるから、度重る検挙投獄と執筆禁止を蒙ったと思います。戦前の作「乳房」は、ソヴェト世界革命文学の集に翻訳され、戦後の「播州平野」は、ソヴェトの・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・前年からみると、二割五分、戦前に比べれば「倍に近い」有様となっている。この現象はアメリカで一つの社会問題となっており、慎重な研究の対象としてとりあげられているばかりでなく、両親の離婚とその間におかれる子供の苦しみをテーマとした劇が上演され、・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ そうでなくただ妥協的に、戦前の状態に復するような講和は成立するわけがない。これほどの大事件が深い痕跡を残さずにすむものか。二 われわれの経験は時間と空間との相違によって著しく強さを異にするものである。 ある事件を一・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫