・・・そして、糸で綴られていて、一見不器用だけれど、手工業時代の産物としての趣味があり、一種の芸術味が存している。中には絵などが入っていて、一層の情趣を添えるのもあって、まことに書物として玩賞に値するのであります。 和本は、虫がつき易いからと・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・「――ドイツのね、ヨゼフ・ディーツゲンという人は、やっぱり皮なめし工という、手工業労働者だったんだ」 しばらくだまっていた倅が、とつぜんそんなこといいだすと、母親は手をやめて、きょとんとした。「――いえさ、おれのような職人だった・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 徳川時代にももちろん紡ぐこと、織ることは一般の婦人、特に町人の婦人たち以外の仕事で、全く手工業として行われているのだが、興味あることは日本の織物として特色のある絣、それに縞、これらが女の人によって発明され織られていったことである。思い・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 近東の少数民族の大衆は、灼けつく太陽の熱や半年もつづく長い冬の中で原始的な手工業、地方病と、封建的地主、親方の二重の搾取の下で、極めておくれた文化をもっていた。 自国語で読み書きすること、著作すること、芝居することまでを禁止され、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 世の中の勢は益々画一へ向い、工場でも小さな工場は併呑されて消えて行っている一方で、人々の感情に郷土的な品物や極めて手工業的な製作品が新しい興味を呼びさまして来ている関係は、今日の日本の文化の心理として案外に微妙であり重大でもあるのでは・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・少し目ぼしい各都市では、手工業的生産が近代資本主義経営へ移り、そういう小市民の暇つぶしのための絵入新聞が未曾有に発刊された。その時代の波はゴーリキイの育っているニージニ・ノヴゴロド市にも打ちよせた。祖父カシーリンが、ヴォルガの曳舟人夫から稼・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・СССР全経済組織は迅速に社会主義化され、個人営業の手工業者までが、集団的生産組合にまとめられつつある。 辻馬車の赤い輪と馬の蹄とは当然昔のような個人的利潤をひらき出さない。その上燕麦は高かった。ソヴェトの農村は五ヵ年計画の集団農場化で・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・明治社会の発達が、繊維工業によって、婦人の最大の犠牲の上に発展して来たのと並行して、日本の後れた工業は、半ば手工業的に、屋内労働的に小工場を日本中にばら撒いた。そこでは昔ながらの徒弟制度や、年期や、半封建的な青少年の労働条件が存在している。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫