・・・小さな小さな猿の癖に、軍服などを着て、手帳まで出して、人間をさも捕虜か何かのように扱うのです。楢夫が申しました。「何だい。小猿。もっと語を丁寧にしないと僕は返事なんかしないぞ。」 小猿が顔をしかめて、どうも笑ったらしいのです。もう夕・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・その旅人と云っても、馬を扱う人の外は、薬屋か林務官、化石を探す学生、測量師など、ほんの僅かなものでした。 今年も、もう空に、透き徹った秋の粉が一面散り渡るようになりました。 雲がちぎれ、風が吹き、夏の休みももう明日だけです。 達・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・わたしの方法は、愛という観念を、あっち側から扱う方法です。人間らしくないすべての事情、人間らしくないすべての理窟とすべての欺瞞を憎みます。愛という感情が真実わたしたちの心に働いているとき、どうして漫画のように肥った両手をあわせて膝をつき、存・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・ 私は、恋愛生活と云うものを余り誇張してとり扱うのは嫌いです。恋愛がそれに価いしないと云うのではなく、正反対に、本当の恋愛は人間一生の間に一遍めぐり会えるか会えないかのものであり、その外観では移ろい易く見える経過に深い自然の意志のような・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・実際今日組合は、婦人のために、つまり未来の妻と母のために、女性を保護する大切な生理休暇をかちとったのに、働いている仲間である男の人があまり若い娘を恥かしめる眼でこの問題を扱うために、婦人たちはちっともその休暇を利用できずにいるということさえ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 対手の悪と醜とを暴露し、やっつけるぎりの消極的諷刺から、諷刺する主体、プロレタリアートの逆襲的勝利、社会的価値の再認識ということまでを含めて扱うところまで進歩して来た。 日本でも、まだ数こそ少ないが、この方面で面白いプロレタリア漫・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・穀物を扱う処である。乾き切った黄いろい土の上に日が一ぱいに照っている。狭く囲まれた処に這入ったので、蝉の声が耳を塞ぎたい程やかましく聞える。その外には何の物音もない。村じゅうが午休みをしている時刻なのである。 庭の向うに、横に長方形に立・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・私は口語でも文語でも、全体として扱う。F君はそれを一々語格上から分析せずには置かない。私は Koeber さんの哲学入門を開いて、初のペエジから字を逐って訳して聞せた。しかも勉めて仏経の語を用いて訳するようにした。唯識を自在に講釈するだけの・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・男の方と云うものは、写真一枚と手紙一本とで勝手に扱うことが出来ますの。男心と云うものはそうしたものでございますからね。Maupassant が notre cur と申した、その男心でございますね。(男の呆れて立ち竦・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・重大事を重大事として扱うのに不思議はないと思うから。しかし引きしめて控え目に、ただ核実のみを絞り出す事は、嘘を書かないための必須な条件であった。製作者自身は真実を書いているつもりでも、興奮に足をさらわれて手綱の取り方をゆるがせにすれば、書か・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫