・・・ 見たまえ――お米が外套を折畳みにして袖に取って、背後に立添った、前踞みに、辻町は手をその石碑にかけた羽織の、裏の媚かしい中へ、さし入れた。手首に冴えて淡藍が映える。片手には、頑丈な、錆の出た、木鋏を構えている。 この大剪刀が、もし・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 涼み台の外に折り畳み椅子が三つ同時に並べられて一同が中庭へ集まる。まだ明るい宵のうちには縄飛びをする者もあれば、写生帖を出しておばあさんの後姿をかいているのもある。明朝咲く朝顔の莟を数えて報告するのもある。幼い女児二人は縁側へいろいろ・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ 日本ではまさか女ばかりでそんなことも出来ますまいが、罐詰にバタその他必要な程度のものの入った小さなバスケット一つに、折畳みの簡単なベッドに毛布これだけで自分が望む土地への避暑ができるのですから頗る手軽で愉快な方法です。海辺はどうも日本・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
出典:青空文庫