・・・何も別にお話する程の珍らしい事もございませぬが、本当に、いつもいつも似たような話で、皆様もうんざりしたでございましょうから、きょうは一つ、山椒魚という珍動物に就いて、浅学の一端を御披露しましょう。先日私は、素直な書生にさそわれまして井の頭公・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・しかし、最早や御近所へ披露してしまった後だから泣寝入りである。後略のまま頓首。大事にしたまえ。萱野君、旅行から帰って来た由。早川俊二。津島君。」 月日。「返事よこしてはいけないと言われて返事を書く。一、長篇のこと。云われるまでも・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・という長篇小説を書いているが、その一節を左に披露して、この悪夢に似た十五年間の追憶の手記を結ぶ事にする。嵐のせいであろうか、或いは、貧しいともしびのせいであろうか、その夜は私たち同室の者四人が、越後獅子の蝋燭の火を中心にして集まり、久し・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・(私はこの手記に於いて、ひとりの農夫の姿を描き、かれの嫌悪すべき性格を世人に披露し、以て階級闘争に於ける所謂「反動勢力」に応援せんとする意図などは、全く無いのだという事を、ばからしいけど、念のために言い添えて置きたい。それはこの手記のお・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・羽左衛門と梅幸の襲名披露で、こんどの羽左衛門は、前の羽左衛門よりも、もっと男振りがよくって、すっきりして、可愛くって、そうして、声がよくって、芸もまるで前の羽左衛門とは較べものにならないくらいうまいんですって。」「そうだってね。僕は白状・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・の処方、『織留』の中に披露された「長寿法」の講習にも、その他到る処に彼一流の唯物論的処世観といったようなものが織り込まれている。 これらは、西鶴一流とは云うものの、当時の日本人、ことに町人の間に瀰漫していて、しかも意識されてはいなかった・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 知人の家の結婚披露の宴に出席する。宅へ帰って「お嫁さんはきれいなかたでしたか」と聞かれれば「きれいだったよ」と答える。およそ、きれいでない新婦などは有り得ないのである。しかし、どんな式服を着ていたかと聞かれると、たった今見て来たばかり・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・一座の立役者Hの子供の初舞台の披露があるためらしい。ある一つの大きな台に積上げた品物を何かとよく見るとそれがことごとく石鹸の箱入りであった。 売店で煙草を買っていると、隣の喫茶室で電話をかけている女の声が聞こえる。「猫のオルガン六つです・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 子供の初節句、結婚の披露、還暦の祝い、そういう機会はすべて村のバッカスにささげられる。そうしなければその土地には住んでいられないのである。 そういう家に不幸のあった時には村じゅうの人が寄り集まって万端の世話をする。世話人があまりお・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・道太は少し沮げていたが、お絹がこの間花に勝っただけおごると言うので、やがて四人づれで、このごろ披露の手拭をつけられた山の裾の新らしい貸席へ飯を食べに行った。それはお絹からみると、また二た時代も古い、芸者あがりの女が出したものであった。 ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫