・・・ なんにもしない、人間を、一ツの警察から、次の警察へ、次の警察から、又その次の警察へ、盥廻しに拘留して、体重が二貫目も三貫目も減ってしまった例がいくらでもある。会合が許されない。僕の友人は、労働歌を歌っていて、ただ、それだけで一年間尾行・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・恵子が淫売で拘留されたことがあるとか、家の裏に抜穴があるとか、もっと詳しいことが噂立った。龍介はイライラしてきた。恵子を信じていても、やはりそんなことがいろいろに意識のうちに入ってきて、不快だった。しかしそれと同時に、彼は恵子をすっかり自分・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・ つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ始末したか、全く奇蹟的で少なくも物質不滅を信ずる科学者には諒解出来ない。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・「拘留ついた?」「中川の奴、二十日だって。……ブル新、盛に『コップ』をデマっているらしいよ」「ほか、無事かしら」「わかんない。……でも」 一寸言葉を区切り、やや早口で、「――無事らしいね」 彼が誰のことを云ってい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・「わたしは先日、拘留開示の前におあいしたとき、ぜんぜんこの事件には関係ないといいましたが、それはウソで、じつは私が電車を走らせたのです」それに対して、今野弁護人が質問した。「それでは先日、なぜウソをいったのですか。」答「私は飯田さんたち・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・私は十二月九日理由不明で駒込署に留められ、〔翌年〕三月検事拘留のまま巣鴨拘置所に送られた。六月下旬警視庁の調べがはじまった。何でもかでも共産主義の宣伝のためにしたという結論におちつけようとする調べであった。六月下旬に検事が来たとき私の調べの・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・どうかすると二三日くらい拘留せられていることもある。そんな時は女房が夜も昼も泣いている。拘留場で横着を出すと、真っ暗い穴に入れられる。そんな時はツァウォツキイも「ああ、おれはなんと云う不しあわせものだろう」とこぼしている。 ある時ツァウ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫