・・・ これに反して拙劣なるモンタージュは、動的な画像の単調無味なる堆積によってかえって観客のあくびを促すような静的なものを作り出すことも可能である。下手な剣劇の立ち回りがそれであろう。 エイゼンシュテインは、日本の文化のあらゆる諸要素が・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ はなはだ拙劣でしかも連句の格式を全然無視したものではあるがただエキスペリメントの一つとして試みにここに若干の駄句を連ねてみる。草を吹く風の果てなり雲の峰 娘十八向日葵の宿死んで行く人の片頬に残る笑 秋の実りは豊・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・文章の拙劣な科学的名著というのは意味をなさないただの言葉であるとも言われよう。 若い学生などからよく、どうしたら文章がうまくなれるか、という質問を受けることがある。そういう場合に、自分はいつも以上のような答えをするのである。何度繰り返し・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・例えば若い教授または助教授が研究している研究題目あるいは研究の仕振りが先輩教授から見て甚だ凡庸あるいは拙劣あるいは不都合に「見える」場合には、自然に且つ多くの場合に当事者の無意識の間に、色々の拘束障害が発生して来て、その研究は結局中止するか・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・どんなに拙劣でもいいから、生まれてまだ見た事のない自分の油絵というものに対してみたいというのであった。 このような望みは起こっては消え起こっては消え十数年も続いて来た。それがことしの草木の芽立つと同時に強い力で復活した。そしてその望みを・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・その際に、もしかこれが旧劇だと、例えば河内山宗俊のごとく慌てて仰山らしく高頬のほくろを平手で隠したりするような甚だ拙劣な、友達なら注意してやりたいと思うような挙動不審を犯すのであるが、ここはさすがに新劇であるだけに、そういう気の利かない失策・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 現代俳句の新型式を生んだ原因となるものは多様であろう。拙劣な譬喩をかりて言えば外国のいろいろな詩形から放散する「輻射線」の刺激もあるであろうし、マルキシズムの注入によって周囲の媒質の「酸度」に変更を生じたためもあろうし、また一般文化の・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ 三 同じ年の五月に、わたしがその年から数えて七年ほど前に書いた『三柏葉樹頭夜嵐』という拙劣なる脚本が、偶然帝国劇場女優劇の二の替に演ぜられた。わたしが帝国劇場の楽屋に出入したのはこの時が始めてである。座附女優諸・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・その講談は老人の猶衰えなかった頃徒歩して昼寄席に通い、其耳に親しく聴いたものに較べたなら、呆れるばかり拙劣な若い芸人の口述したものである。然し老人は倦まずによく之を読む。 わたくしが菊塢の庭を訪うのも亦斯くの如くである。老人が靉靆の力を・・・ 永井荷風 「百花園」
戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人姦淫等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞の流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想し・・・ 永井荷風 「裸体談義」
出典:青空文庫