・・・たとえばお前が世過ぎのできるだけの仕事にありついたとしても、弟や妹たちにどんなやくざ者ができるか、不仕合わせが持ち上がるかしれたものではないのだ。そうした場合にこの農場にでもはいり込んで土をせせっていればとにもかくにも食いつないでは行けるだ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ しかし、こうした話が持ち上がると、自由を慕う本能が、みんなの心の中に目覚めたのでした。「ゆこう、ゆこう、ここで、こうして意気地なく、この冬を送るよりか、翼の力のつづくかぎり、広い、自由な、そして、安全な世界を探しに出かけようじゃな・・・ 小川未明 「がん」
・・・陶工の得た名声や利得が大きければ大きいほど、こういう事件の持ち上がる確率が大きいようである。 文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。 哲学者科学者皆そうである。ア・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・陸地の上の空気は海上よりも強くあたたまり、膨張して高い所の空気が持ち上がるから、そこで海のほうへあふれ出すので、それを補うため、下では海面から陸のほうへ空気が流れ込むのがすなわちこの風です。それだから海軟風の吹く前には、空の高い所では逆の風・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・それで後にはわざわざ畳に持ち上がるのは断念して、捕えた現場ですぐに食う事を発明したようである。時々舌なめずりをしながら縁側へ上がって来る猫を見るとなんだか気持ちが悪くなった。われらの食膳の一部を食っている、わが家族の一員であるはずのこの猫が・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
出典:青空文庫