・・・ と二人で差向で話をしておりまする内に、お喜代、お美津でありましょう、二人して夜具をいそいそと持運び、小宮山のと並べて、臥床を設けたのでありますが、客の前と気を着けましたか、使ってるものには立派過ぎた夜具、敷蒲団、畳んだまま裾へふっかり・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・奥田、鍋を部屋のなかに持ち運び、障子をしめる。障子に、奥田の、立って動いて、何やら食事の仕度をしている影法師が写る。ぼんやり、その奥田の影法師のうしろに、女の影法師が浮ぶ。その女の影法師は、じっと立ったまま動かぬ。外は夕闇。・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・私は、恭々しく謹んで、微弱な、唯一の燈火を持運びます。〔一九二一年四月〕 宮本百合子 「偶感一語」
・・・と云う間もなく、可愛い二羽のべに雀と、金華鳥、じゅうしまつなどを、持ち運びの出来る小籠で、大切そうに運び込んだのである。 私は悦び、額をつけて中を覗いた。子供の時、弟が、カナリアと鶏、鳩などを沢山飼ったことがある。ろくに見もしないう・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫