・・・づけにして指名した。勿論すぐに席を離れて、訳読して見ろと云う相図である。そこでその生徒は立ち上って、ロビンソン・クルウソオか何かの一節を、東京の中学生に特有な、気の利いた調子で訳読した。それをまた毛利先生は、時々紫の襟飾へ手をやりながら、誤・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・作文の時間には指名されて朗読しました。『新聞』と云う題で夕刊売の話を書き級中を泣かせました。俳句を地方新聞にも出されました。ぼくは幼ないジレッタント同志で廻覧雑誌を作りました。当時、歌人を志していた高校生の兄が大学に入る為帰省し、ぼくの美文・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・食卓で幹事の指名かなんかでテーブルスピーチがあった。正客の歌人の右翼にすわっていた芥川君が沈痛な顔をして立ち上がって、自分は何もここで述べるような感想を持ち合わさない。ただもししいて何か感じた事を述べよとならば、それは消化器の弱い自分にとっ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・あまりおもしろくもないあるいはむしろ不愉快な演説を我慢して聞くのはまだいいとしても、時によると幹事とか世話人から「指名」などと言って無理やりに何かしゃべる事を強要される。それでも頑強に応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉にあげられる。・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ それから別れる場合の、話しのつけ方と、交渉にあたる人とを、道太は指名した。「どうも僕じゃ少し工合がわるい。つい厭なことも言わなけあならないから」「そうや。どうも法律を知っているといって、力んでいるそうやさかえ」「まあしかし・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・第一、特定の人々を指名したわけではなかったのに、ジャーナリストの中の誰かが、漠然と暗示されたのでは編集上不安心で困ると、やかましくいって、役人側にリストを公表させたのだという説明であった。「実際のことは、事務官があつかっていますから、た・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・先生が指名しましたか。其とも級として自由に選んだでしょうか。級として自由に選ぶことが出来たのなら、自分たちの選んだ級長にあき足りない点があるとき、それはとりも直さず、そういう不満のある人を選み出した自分たちの責任であると、知ることが出来なく・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 益々その範囲を拡大するという風評と図書課長談として同様の意嚮の洩されたことは、事実指名をされなかった窪川夫妻などの執筆場面をも封鎖した結果になっている。 一月十七日中野重治と自分とが内務省警保局図書課へ、事情をききに出かけた。課長・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・どちらでもよいように永山氏はただ大浦天主堂御中という指名にされてある。私丁寧に答える。「どちらでもよろしいのです。拝観さえ出来れば」 すると、爺さん、名刺を見ようともせず私にかえし「拝観なら、私でええ。今、葬式で皆お留守だ。そこ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・その役人とジャーナリストたちとの定期会見の席で、あるジャーナリストから編輯上の判断に困るから内務省として執筆を希望しない作家、評論家を指名してくれといったために、当局としては個人指名までを考えてはいなかったのに、数名の人の生活権をおびやかす・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫