・・・あとは、捏造するばかりである。何も、もう、思い出が無いのである。語ろうとすれば、捏造するより他はない。だんだん、みじめになって来る。 ひとつ、手紙でも書いて見よう。「おじさん。サビガリさん。サビシガリさんでも無ければ、サムガリさんで・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・ 以上が先生の文章なのであるが、こうして書き写してみると、なんだか、ところどころ先生のたくみな神秘捏造も加味されて在るような気がせぬでもない。豚の眼が、最も人間の眼に近似しているなどは、どうも、あまり痛快すぎる。けれども、とにかくこれは・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ひとりが、思いつくままに勝手な人物を登場させて、それから順々に、その人物の運命やら何やらを捏造していって、ついに一篇の物語を創造するという遊戯である。簡単にすみそうな物語なら、その場で順々に口で言って片附けてしまうのであるが、発端から大いに・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・するとこの一種の関係に対して吾人は因果の名を与えるのみならず、この関係だけを切り離して因果の法則と云うものを捏造するのであります。捏造と云うと妙な言葉ですが、実際ありもせぬものをつくり出すのだから捏造に相違ない。意識現象に附着しない因果はか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・たる計画的な犯罪の挑発、捏造事件で人民の民主化を抑圧するために活躍している。 世界の民主主義者、良心ある人々が、国際ファシズムの一つの動きとして、MRAを批判していることは全く正しい。もし真実の道徳再建であるならば、今日世界の到るところ・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・日本の政権が、こんにち言論を抑圧し、正義をまげて労働者階級を弾圧し、民主的発展を挫折させるために、捏造している幾つかの政治的事件の裁判でのように、人民の基本的人権さえも法律によってふみにじられることはあり得ないからです。 一九四九年十月・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・うスケールでは、そのことに関する公然たる意志表示や行為を政治的であるとしてさけがちな日本の文学者も、この作品の翻訳に関して侵略して来た告発、思想と言論に対する権力の圧迫には、面をそむけずにたたかって、捏造を拒否しつつある。 伊藤整が、七・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・という形容詞をつけてよいほどスパイ摘発の意味と事実を論告したにもかかわらず、主文にあらわれた判決理由は十一年前宮本が検事局によって起訴された理由と九分通りまで同じに、事実と異った捏造によって書かれていた。このことは私に天皇制ファシズムの法律・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ とくに、日本の平和のために適切です。捏造記事である大本営発表に追い立てられてきょうの破滅が来たことを、日本のすべての人々は知らされました。特権階級として権力を握っているものは、どんなだいそれたことまで平気でしでかすか、ということについ・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
出典:青空文庫