・・・まさかアッタッシェの癖に、新聞記者と一しょになって、いい加減な嘘を捏造するのではあるまいね。」「誰がそんなくだらない事をするものか。僕はあの頃――屯の戦で負傷した時に、その何小二と云うやつも、やはり我軍の野戦病院へ収容されていたので、支・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・「世間の噂も、己の考えでは、誰か第二の己が第二のお前と一しょにいるのを見て、それから捏造したものらしい。己は固くお前を信じている。その代りお前も己を信じてくれ。」私はその後で、こう力を入れてつけ加えました。しかし、妻は、弱い女の身として、世・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲を我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造していることである。すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・それには、青木と田島とが、失望の恨みから、事件を誇張したり、捏造したりしたのだろう、僕が機敏に逃げたのなら、僕を呼び寄せた坊主をなぐれという騒ぎになった。僕の妻も危険であったのだが、はじめは何も知らなかったらしい。吉弥を案内として、方々を見・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・まする時は、なるほど馬琴の書いたようなヒーローやヒロインは当時の実社会には居らぬに違い無いが、しかし馬琴の書いたヒーローやヒロインは当時の実社会の人々の胸中に存在して居たもので、決して無茶苦茶に馬琴が捏造したものでもよそから借りて来たもので・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・あるものは持って廻った捏造物だ、あるものは虚偽矯飾の申しわけだ、あるものは楯の半面に過ぎず、あるものはただの空華幻象に過ぎない。自分の知識が白い光をその上に投げると、これらのものは皆その粉塗していた色を失ってしまう、散文化し方便化してしまう・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ミステフィカシオンが、フランスのプレッシュウたちの、お道楽の一つであったそうですから、兄にも、やっぱり、この神秘捏造の悪癖が、争われなかったのであろうと思います。 兄がなくなったのは、私が大学へはいったとしの初夏でありましたが、そのとし・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・冗談にもせよ、人の作品を踏台にして、そうして何やら作者の人柄に傷つけるようなスキャンダルまで捏造した罪は、決して軽くはありません。けれども、相手が、一八七六年生れ、一昔まえの、しかも外国の大作家であるからこそ、私も甘えて、こんな試みを為した・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私たちは、いつでもおっかなびっくりで、心の中で卑怯な自問自答を繰りかえし、わずかに窮余のへんてこな申し開きを捏造し、責任をのがれ、遊びの刑罰を避けようと致しますから、ちょっとの遊びもたいへんいやらしく、さもしく、けちくさくなってしまいます。・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・の人から私によこした手紙のような形式になっているのであるが、もちろん之は事実に於いては根も葉も無いことで、中畑さんはこんな奇妙な手紙など本当に一度だってお書きになった事は無いので、これは全部、私自身が捏造した「小説」に過ぎないのだという事は・・・ 太宰治 「帰去来」
出典:青空文庫